刑法199条は「人を殺した者」に適用される基本的な犯罪規定だが、試験では故意の認定・因果関係の判断・共犯の成否など多様な論点が問われる。条文の構造から試験答案への落とし込みまで整理する。
条文
刑法第199条(殺人)
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
構成要件
殺人罪の成立要件
① 客体:「人」
自然人に限られる。胎児は「人」に含まれないが、一部露出説(判例)によれば分娩開始後は「人」として保護される。
② 実行行為:「殺した」
人の死亡を招く現実的危険性のある行為。不作為による場合は、作為義務・作為可能性・同価値性の検討が必要。
③ 結果:死亡
被害者の死亡が必要。未遂(刑法203条)との区別は死亡結果の有無による。
④ 因果関係
実行行為と死亡の間に相当因果関係が必要。介在事情がある場合は、危険の現実化の有無を検討する(最判平成2年11月20日)。
⑤ 故意(殺意)
人を死亡させることの認識・認容が必要。未必の故意(結果を認容する意思)でも足りる。傷害致死(刑法205条)との区別で重要。
故意の認定
実務・試験で最も争われるのが「殺意(死の故意)」の有無だ。未必の故意と傷害の故意の区別は、次の観点から検討する。
- 凶器の種類・部位(致命傷になりやすい部位への攻撃か)
- 攻撃の態様・強度(反復・継続性)
- 行為後の救護の有無
- 被告人の供述の信用性
因果関係:介在事情の処理
被害者の行動・第三者の行為・自然的事情が介在した場合、「危険の現実化」理論(最判平成2年11月20日)で処理する。
- 介在事情が実行行為の危険を現実化させたか否かで判断
- 被害者の逃走中の事故:実行行為の危険が現実化した → 因果関係あり
- 第三者の著しく不相当な行為の介在:危険の現実化を遮断 → 因果関係なし(原則)
関連条文
- 刑法203条(殺人未遂)— 死亡結果が発生しない場合
- 刑法205条(傷害致死)— 傷害の故意しかなく死亡した場合
- 刑法202条(自殺関与・同意殺人)— 被害者の同意がある場合
- 刑法60条(共同正犯)— 複数人で殺害した場合