不法行為(民法709条)は、司法試験・予備試験を通じて最も出題頻度が高い論点のひとつだ。しかし「なんとなく暗記している」状態では、事例問題で正確な論証を展開できない。本記事では条文の構造から試験答案の書き方まで、使える形で整理する。
条文を正確に読む
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
条文は短いが、損害賠償責任が発生するための要件が全て詰め込まれている。試験では「なぜこの要件が必要か」を説明できることが求められる。
4つの構成要件
不法行為の成立要件(民法709条)
① 故意・過失
行為者に帰責性があること。故意は結果の認識・認容。過失は客観的な注意義務違反(予見可能性 + 回避義務違反)で判断する。
② 権利または法律上保護される利益の侵害
保護法益の存在が前提。判例は「法律上保護される利益」を広く解釈し(最判昭和45年12月18日・北方ジャーナル事件等)、所有権・身体・名誉・プライバシーなどが対象となる。
③ 損害の発生
財産的損害(積極損害・逸失利益)と非財産的損害(慰謝料)を含む。損害額の立証は被害者側に立証責任がある。
④ 侵害行為と損害の間の相当因果関係
「相当因果関係」とは、当該侵害行為から通常生じるといえる損害の範囲に限定する概念。416条類推適用説が通説・判例(大連判大正15年5月22日)。
論証の型
試験答案では、各要件を「問題提起 → 規範定立 → 当てはめ」の流れで論じる。特に注意が必要なのは過失の規範と因果関係の論述だ。
過失の論証例
- 過失とは、客観的な注意義務違反をいう(客観的過失論)
- 注意義務の内容は、当該状況における合理人を基準に判断する
- ①結果の予見可能性 ②結果回避義務の存在 ③その義務違反 の3点を論じる
因果関係の論証例
- 相当因果関係とは、当該行為から通常生じるといえる損害に賠償範囲を限定する概念
- 「通常生じる」の判断は、行為時の客観的事情を基準とする
- 特別事情による損害は、行為者が予見していた場合にのみ賠償範囲に含まれる(416条類推)
試験で押さえるべき関連論点
- 共同不法行為(民法719条)— 数人が共同して不法行為を行った場合の連帯責任
- 使用者責任(民法715条)— 被用者の不法行為に対する使用者の責任
- 過失相殺(民法722条2項)— 被害者の過失による損害額の減額
- 消滅時効(民法724条)— 損害および加害者を知った時から3年