民法9
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Elenco編集部監修・編集
公開 2026.05.07最終更新 2026.05.21

民法94条 通謀虚偽表示——2項の第三者と類推適用の整理

この記事のポイント

民法94条1項の要件・効果、2項の『第三者』の意義(最判昭和45年9月22日)、94条2項類推適用と110条類推併用(最判平成18年2月23日)について、論証の組み立て方まで整理する。

民法94条は『通謀虚偽表示は無効・善意の第三者には対抗できない』と短く要約できる一方、答案では2項の『第三者』の範囲と、通謀のない場面に2項を類推適用する場合の枠組みが論点となる。本稿では条文の要件と判例の整理を出発点に、論証の組み立て方まで通して扱う。

①94条1項の要件と効果、②2項の『第三者』の範囲、③94条2項類推適用と110条類推併用、④論証の組み立て方、の順で扱う。対抗要件との関係は 民法177条 対抗要件 を、代理に関連する権利外観法理は 民法110条 表見代理 を併読してほしい。

94条1項の要件と効果

条文
民法94条(虚偽表示)

1 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。 2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

1項は、相手方と通じてした虚偽の意思表示を無効とする。要件は①意思表示の存在、②表示と真意の不一致、③相手方との通謀(合意)、の3つに整理される。差押えを免れるためにAと通謀してA名義に登記を移すような事案が典型である。

94条1項の整理

意思表示の存在

契約書・登記・通知などの外形が前提となる。そもそも意思表示と呼べる外形がない場合は、94条の問題ではなく事実関係として処理される。

表示と真意の不一致

表示された内容と表意者の真意が一致しないこと。契約の一部のみが虚偽である場合もあり、当該意思表示の単位で判断する。

通謀(合意)

表意者と相手方の間で虚偽の外形を作ることに合意がある必要がある。この点が、表意者単独で真意と異なる表示をする心裡留保(93条)との決定的な違いとなる。

効果

当事者間では無効。ただし2項により、善意の第三者には無効を対抗できない(相対的無効)。

2項の『第三者』の範囲

94条2項の『第三者』について、最判昭和45年9月22日民集24巻10号1424頁は、虚偽表示の当事者およびその一般承継人以外の者であって、当該虚偽の外形について新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者をいうとする整理を示した。

この枠組みのもとで、虚偽の名義人から目的物を譲り受けた者、当該物に抵当権など物権を取得した者、差押えを行った債権者などは『第三者』として保護される方向で論じられる。

一方で、虚偽表示の前主に対する一般債権者で差押えに至っていない者や、前主の包括承継人は、外形について新たな独立の利害関係を取得したとは評価しがたく、2項の『第三者』からは除外される側として整理される。

94条2項類推適用と110条類推併用

94条2項は文言上は通謀がある場合の規律だが、判例・通説は、通謀がない場面でも、真の権利者が虚偽の外形作出に関与している場合に、権利外観法理を根拠として2項を類推適用してきた。真の権利者の帰責性と、外形を信頼した第三者の保護をどのレベルで釣り合わせるかが論点となる。

最判平成18年2月23日民集60巻2号546頁(不実登記の長期放置事案)は、真の権利者が不実の登記の存在を知りながらこれを長期間放置するなど、明示的な承認に匹敵する事情があり、かつ第三者が善意無過失である場合に、94条2項と110条の趣旨を併せて類推適用する旨を示した。 94条2項の単独類推では善意で足りるところ、110条の趣旨を加味する局面では無過失まで要求される、という整理が標準的である。

民法94条2項の処理体系
民法94条2項の体系94条2項 直接適用● 通謀虚偽表示が前提● 第三者は善意で足りる第三者の範囲含む: 譲受人・物権取得者・差押債権者除外: 一般債権者・包括承継人判例: 最判昭和45年9月22日94条2項 類推適用● 通謀なし+外形作出への関与● 権利外観法理が根拠類型の整理① 真の権利者の意思で外形作出→ 善意で足りる② 事後の承認→ 善意で足りる③ 不実登記の長期放置→ 善意+無過失(110条併用)判例: 最判平成18年2月23日

論証の組み立て方

94条2項 論証の型

問題の所在

本件で問題となるのは、X-A間の意思表示の無効を、A名義の外形を信頼してAから取得したBに対抗できるか(民法94条2項およびその類推適用)である。

直接適用か類推適用か

X-A間に通謀虚偽表示が認められるかをまず検討する。通謀が認められれば94条2項の直接適用、認められない場合でも真の権利者の外形作出への関与があれば類推適用を検討する。

判例規範

94条2項の『第三者』については、最判昭和45年9月22日が、虚偽の外形について新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者と整理している。類推適用の限界事例である不実登記の長期放置については、最判平成18年2月23日が、明示的承認に匹敵する事情と第三者の善意無過失を要件として、94条2項と110条の趣旨を併せて類推適用する旨を示している。

規範の趣旨

真の権利者の帰責性の程度と、外形を信頼した第三者の保護とを釣り合わせる権利外観法理として整理される。帰責性が弱い局面では第三者側の要件(無過失)を引き上げる方向で調整される。

当てはめ

本件では、〇〇という事情から、Bは2項の『第三者』に当たり、Xの帰責性は〇〇の程度に達している。Bは善意(あるいは善意無過失)であり、判例の枠組みに照らして保護される(あるいは保護されない)。

結論

以上から、Xの請求は認められない(あるいは認められる)。

よくある誤解

よくある質問

Q. 94条2項の第三者に登記は必要か

A.94条2項の保護を受けるための第三者の要件として、対抗要件としての登記の具備は要しないと整理されることが多い。

虚偽の外形が真の権利者の側に戻されていない段階で第三者が現れる構造のため、登記具備を要件とすると2項の趣旨が機能しなくなる、という説明である。

Q. 94条2項類推適用と110条表見代理はどう違うか

A.94条2項類推適用は、真の権利者による虚偽の外形作出への関与を中核に据える権利外観法理の枠組みである。

110条表見代理は、代理権の存在を信頼させる外観と代理権の範囲を超えた行為を中核とする。最判平成18年2月23日のように、不実登記の長期放置という関与の弱い場面で両者の趣旨を併せて類推する整理がある。

Q. 94条1項の無効と詐欺・強迫の取消しはどう違うか

A.94条1項は無効であり、当事者間で当初から効力を生じない。

96条の詐欺・強迫は取消しであり、取消しがあるまでは有効である。主張権者・第三者保護の構造も異なるため、両者を混同しないよう注意したい。

Q. 94条2項の善意の判断時点はいつか

A.第三者が当該外形に基づいて新たに独立の法律上の利害関係を取得した時点を基準に判断するのが一般的な整理である。

取得時に善意であれば、その後悪意になっても保護関係は維持されると論じられる。

Q. 94条2項も類推適用も認められない場合の処理は

A.Xの所有権が完全に維持され、Bは無権利者からの取得者として保護されない。

Bは前主に対する債務不履行・不法行為等の請求を別途検討することになる。動産取引であれば、即時取得(192条)による別ルートでの保護の余地も検討する。

対抗要件との関係は 民法177条 対抗要件 を、権利外観法理が問題となる別の場面は 民法110条 表見代理 を併読してほしい。

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