民法9
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公開 2026.05.07最終更新 2026.05.18

民法96条 詐欺・強迫——取消しと第三者保護の整理

この記事のポイント

民法96条の詐欺・強迫による取消し、第三者詐欺(2項)、善意無過失の第三者保護(3項)、取消後の第三者と177条の関係を整理する。

民法96条は、詐欺・強迫による意思表示の取消しと、その効果が第三者に及ぶ範囲を定める。2020年改正により、第三者詐欺(2項)の要件と、善意の第三者保護(3項)の要件が見直されたため、改正前後の対比を踏まえて整理しておく必要がある。本稿では1〜3項の構造と、取消後の第三者との関係を扱う。

①96条1項の詐欺取消し・強迫取消し、②2項の第三者詐欺、③3項の善意無過失の第三者保護、④取消後の第三者と177条との関係、⑤論証の組み立て方、の順で扱う。関連条文として 民法95条 錯誤民法177条 不動産物権変動の対抗要件 と合わせて読むと、意思表示の瑕疵と第三者保護を一通り把握できる。

96条の構造

条文
民法96条(詐欺又は強迫)

1項 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。 2項 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。 3項 前2項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

1項は詐欺・強迫いずれによる意思表示も取り消すことができる旨を定める。2項は、表意者の相手方ではない第三者が詐欺を行った場合の特則で、相手方の認識が要件となる。3項は、詐欺による取消しに限り、善意かつ過失のない第三者に対しては対抗できないと定める。 強迫による取消しは3項の対象外であり、第三者の主観を問わず対抗可能である。

改正前後の対比

1項(詐欺・強迫)

改正前後で実質的な変更はない。詐欺・強迫による意思表示は取り消すことができる。

2項(第三者詐欺)

改正前は、相手方が悪意の場合に限り取消しが可能とされていた。改正後は、相手方が知り、または知ることができた場合(悪意または過失)に拡張された。

3項(第三者保護)

改正前は「善意の第三者」に対抗できないとされ、過失の有無は問われていなかった。改正後は「善意でかつ過失がない第三者」に厳格化され、第三者にも一定の調査確認が期待される枠組みとなった。

強迫と3項

強迫による意思表示は、改正前後とも3項の対象外。強迫は表意者の意思の自由を強く制約する事情であり、被害者保護を貫徹する趣旨である。

取消前の第三者と取消後の第三者

判例は、取消前に利害関係を有するに至った第三者と、取消後に利害関係を有するに至った第三者とで処理を分ける。取消前の第三者については、96条3項により、善意かつ無過失であれば取消しを対抗されない。取消後の第三者については、表意者と取消後の第三者との関係を、二重譲渡類似の対抗関係として177条等の対抗要件で処理する考え方が定着している。

最判昭和49年9月26日民集28巻6号1213頁は、AがBの詐欺により不動産を譲渡し、その後取消しがされたあとに、Bがさらに第三者に転売した事案で、取消後の第三者との関係を177条の対抗関係として処理する考え方を示した。取消前の第三者は96条3項、取消後の第三者は177条、という二段構造として理解されている。

強迫が3項の対象外である趣旨

強迫は、表意者の意思の自由を著しく圧迫する違法行為であり、詐欺と比べて表意者を保護する必要性が高い。

そのため、改正前から96条3項は詐欺取消しのみを対象とし、強迫取消しは第三者の善意悪意にかかわらず対抗できる構造とされてきた。改正後もこの構造は維持されている。

民法96条 取消しと第三者保護の判定フロー
民法96条の判定詐欺か強迫か(強迫は3項の対象外)相手方の詐欺か第三者詐欺か(2項:相手方の悪意・過失)第三者は取消前か取消後か取消前は3項(善意・無過失)/取消後は177条(対抗関係)

論証の組み立て方

民法96条の論証

問題の所在

本件で問題となるのは、Aが詐欺(強迫)を理由に意思表示を取り消し、これを第三者に対抗できるかである。

要件の特定

96条1項は詐欺・強迫による取消しを認める。3項は詐欺取消しに限り、善意かつ無過失の第三者に対抗できないと定める。本件では取消原因の種類と、第三者の取得時期、第三者の主観が問題となる。

判例規範

最判昭和49年9月26日は、取消前の第三者は96条3項、取消後の第三者は177条の対抗関係で処理する旨を示している。

規範の趣旨

詐欺取消しでは取引安全と表意者保護を調和し、強迫取消しでは被害者保護を優先するという、根拠の違いを反映した構造である。

当てはめ

本件のCは取消前に取得しており、登記簿・契約書から取消原因を知る契機がなかったため、善意かつ無過失と評価される(あるいはされない)。仮にDが取消後に取得しているのであれば、Aとの関係は177条の対抗関係として処理される。

結論

以上から、Aの取消しはCに対抗できない(あるいは対抗できる)。強迫取消しであれば、3項の対象外であるため、Cの主観を問わず対抗が可能となる。取消後の第三者については、登記の先後で判断される。

よくある誤解

よくある質問

Q. 強迫取消しは96条3項で第三者に対抗できないのか

A.強迫による取消しは3項の対象外である。

3項は「詐欺による意思表示の取消し」に限定して第三者保護を定めており、強迫の場合は第三者が善意でも、無過失でも、取消しを対抗できる。被害者保護を貫徹する趣旨である。

Q. 取消前の第三者と取消後の第三者をどう区別するのか

A.第三者が利害関係を取得した時点が、表意者の取消しの意思表示より前か後かで区別する。

取消前の第三者には96条3項が適用され、善意かつ無過失なら取消しの効果を対抗されない。取消後の第三者との関係は、二重譲渡類似の対抗関係として177条で処理するのが判例の立場である。

Q. 改正後96条3項の「善意かつ過失がない」はどう判断するか

A.登記の状況、契約書の体裁、取引慣行などから、第三者が取消原因の存在を知り得る事情があったかどうかを評価する。

改正前は善意のみを要件としていたが、改正後は調査確認が期待される枠組みに変わっている。

Q. 第三者詐欺(2項)の場合の処理は

A.相手方が詐欺の事実を知り、または知ることができた場合に限り取消しが可能。

改正前は相手方が悪意の場合に限定されていたが、改正後は過失で知らなかった場合にも取消しが認められる枠組みに改められた。

取消しの効果については [民法121条以下]、登記による対抗関係については 民法177条 不動産物権変動の対抗要件 を参照してほしい。意思表示の瑕疵を全体として整理するなら 民法95条 錯誤 と合わせて読むのが効率的である。

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この記事で言及した条文

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