民事・家事10
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Elenco編集部監修・編集
公開 2026.05.07最終更新 2026.05.18

離婚の親権争い——監護の継続性と子の福祉を中心とする判断要素

この記事のポイント

離婚時の親権者指定を、民法819条の枠組みと、家裁実務で重視される判断要素(監護の継続性・子の意思・監護能力・フレンドリーペアレント要素など)から整理する。2024年改正民法の共同親権制度の射程も扱う。

離婚時の親権者指定は、抽象的に『子の福祉』として語られる一方、家裁実務では具体的な判断要素に分解して評価される。本稿では、民法819条の枠組みと、家裁が重視する判断要素、2024年改正民法(共同親権制度導入)の射程までを整理する。

扱うのは、①民法819条の枠組み、②家裁が重視する判断要素、③2024年改正と共同親権、④父親が親権を取得するケース、⑤典型的な失点パターン、の順である。

条文と前提

条文
民法819条(離婚又は認知の場合の親権者)

1項 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。 2項 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。 3項 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。 5項 第1項、第3項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。 6項 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。

民法819条は、離婚時の親権者の定め方を、協議離婚と裁判離婚に分けて規律する。協議が調わなければ家庭裁判所の調停・審判で決し、裁判離婚では裁判所が職権で親権者を定める。改正前の単独親権制度では、離婚後は父母の一方だけが親権を持ち、もう一方には面会交流と養育費の負担が残るかたちが基本であった。

家裁が重視する判断要素

親権者指定で考慮される主な要素

監護の継続性

現に子を主として監護してきた親が引き続き監護することが、子の生活環境の安定に資するという発想。家裁調査官は、別居前後の保育園送迎、通院、学校行事への関与などの実績を確認する。実務上最も重視される要素の一つである。

子の意思

家事事件手続法65条・152条、人事訴訟法32条4項により、15歳以上の子については親権者指定にあたって陳述を聴取する必要がある。10歳前後の子についても調査官面接で意思確認がなされることが多いが、表明された意思が一方の親による不当な影響を受けていないか、その真意性が吟味される。

母性優先の発想

乳幼児期については、母親が監護することが子の福祉に資するとされる場面が多い。もっとも近年は、画一的な母性優先ではなく『主たる監護者優先』の発想に統合される傾向にあり、父親が主たる監護者であった事案では父親が親権者となる例もある。

監護能力と監護環境

心身の健康状態、住居、就労状況、監護補助者(祖父母など)の有無といった、安定的な監護を継続できる総合的環境が評価される。経済力単独で結論が決まるわけではなく、収入差は養育費の枠組みで補正される。

面会交流への寛容性

離婚後に他方親と子の交流を阻害しない姿勢があるか(いわゆるフレンドリーペアレント要素)が評価される。子の前で他方親を執拗に非難する、面会交流に正当な理由なく非協力的であるといった事情は、親権者としての適格性評価で減点要素となる。

きょうだいの分離回避

きょうだいが複数いる場合、できる限り分離しない方向で監護環境を組むのが基本である。年齢や性別による考慮は、上記要素を覆すほどの決定力はもたず、補強要素として位置づけられる。

2024年改正民法と共同親権

2024年に成立した民法改正により、離婚後の親権について、父母の協議または家庭裁判所の判断により共同親権を選択できる枠組みが導入された。施行は2026年が予定されている。改正後も、DVや虐待のおそれがある事案、父母間の協議が著しく困難な事案では、家庭裁判所は単独親権を指定することができる。 共同親権が指定された場合でも、進学・医療・転居といった重要事項は父母の合意を要する一方、緊急時や日常監護の場面では監護親が単独で判断できる、という枠組みになる。

共同親権の選択肢が加わっても、家裁が重視する判断要素の核となる『監護の継続性』『子の福祉』の発想は変わらない。共同親権下でも監護親の指定や、面会交流の枠組み、養育費の取り扱いについて、判断要素を踏まえた個別判断が必要となる。

父親が親権を取得するケース

実務で父親が親権者となる事案には、共通する事情が見られる。 たとえば、父親が育児休業を取得して別居前から主たる監護者であった事案、母親側に重大な養育不適格事情(重度の精神疾患の未治療、育児放棄、薬物依存など)がある事案、母親が子を連れて別居した後に監護環境が不安定になった事案、子(特に10歳以上)が一貫して父親との生活を希望し、その意思の真意性が調査官調査で裏付けられた事案などである。

いずれも、抽象的な『父親の愛情』ではなく、具体的な監護実績や監護環境の優位性が立証されている点に共通点がある。性別による画一的判断ではなく、判断要素に分解して、本件における監護の実情を具体的に主張・立証することが鍵となる。

典型的な失点パターン

親権争いで陥りやすい失点

別居時に子を連れて出ない

監護の継続性が重視されるなかで、別居時に子を連れて出ない選択は親権獲得を不利にする方向で働きうる。一方、無断での連れ去りは違法な連れ去りとして評価されうるため、配偶者の同意や合理的理由を踏まえた対応が必要となる。

経済力を主軸に据える主張

養育費による経済格差の補正が想定されているため、収入の多寡だけでは結論を左右しない。経済力は補強要素にとどまる位置づけである。

面会交流に非協力的な態度

フレンドリーペアレント要素として減点される。子の面前での他方親の非難や、面会交流の正当な理由のない拒否は、親権者としての適格性評価を下げる。

子の意思を誘導する行為

子に対して『どちらと住みたいか』を繰り返し問いかける、SNS等で他方親を非難する内容を子に見せるといった行為は、子の意思の真意性を疑わせ、評価を下げる。

監護実績を記録に残していない

保育園・学校・病院の連絡帳や通院記録、写真などで監護実績を立証する準備を怠ると、別居後にいくら主張しても客観的な裏付けがない状態になる。

親権者指定の判断要素
親権者指定の判断要素監護の継続性 — 別居前からの主たる監護者子の意思 — 15歳以上は必須聴取、10歳前後でも調査官面接監護能力・環境 — 健康・住居・就労・監護補助者面会交流への寛容性(フレンドリーペアレント要素)

よくある質問

Q. 母親でも親権を失う場合はあるか

A.ある。育児放棄、虐待、重度の精神疾患の未治療、薬物依存、他方親への執拗な引き離し行動などがある場合、母親であっても親権者として不適格と判断さ

Q. 親権を取らないと子に会えなくなるか

A.そうではない。

親権者ではない親も、民法766条に基づいて面会交流を求めることができる。協議または家裁の調停で頻度・方法を定めるのが基本である。

Q. 子が15歳未満でも意思は考慮されるか

A.考慮される。家事事件手続法上の必須聴取は15歳以上だが、10歳前後の子についても調査官面接で意思確認がなされる場面が多い。意思の真意性が吟味

Q. 親権者を後で変更できるか

A.民法819条6項により、子の利益のため必要があれば家庭裁判所に親権者変更を申し立てることができる。

協議による変更はできず、必ず家裁手続を要する。

Q. 共同親権はすべての離婚で選ばれるか

A.そうではない。

2024年改正民法は共同親権を選択肢として加えるものであり、DVや虐待のおそれがある事案、父母の協議が困難な事案では、家裁は単独親権を指定する余地を残している。

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